やっぱり「顔」! ~魚の顔識別を裏付ける研究成果(続編)~
※本発表は2015年11月24日プレスリリース「魚も顔で相手を識別している!」の続編です。
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆5/19 日本経済新聞(夕)、産経新聞(夕)、
毎日新聞※、産経フォト※、共同通信47NEWS※、Yahooニュース※
◆5/23 大阪日日新聞
その他、地方紙等多数掲載
概 要
理学研究科の幸田正典教授のグループは、顔以外にも模様がある魚でも顔模様だけで相手を識別することを世界で初めて明らかにしました。この成果は、他個体を識別する魚類が「顔」を見て相手を識別していることを裏付けています。
本内容は2016年5月19日午前3時(日本時間)に、 米国の科学専門雑誌PLOS ONEのオンライン版に掲載されました。
【雑誌名】
PLOS ONE
【論文名】
Facial recognition in a discus fish (Cichlidae): Experimental approach using digital models
【著 者】
Shun Satoh, Hirokazu Tanaka, Masanori Kohda
【掲載URL】
http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0154543
本研究の概略
図1.前回実験対象のプルチャー
顔の部分にしか模様がない。
昨年11月、アフリカの淡水魚の一種(プルチャー 図1)が顔の模様で相手を識別することを示しました。しかし、この魚は顔にしか模様がないため、個体識別のカギとなる「模様」が偶然顔にあったという可能性も考えられます。魚の個体識別において、単に「模様」が重要だとすれば顔と同様に全身に模様がある魚では、顔以外の模様で相手を識別するかもしれません。そこで今回、全身に模様がある淡水魚ディスカスで実験を行いました(図2)。本種はペアを作り、既知の個体を識別しています。もしヒトやサル類のように「顔」が個体識別に重要なら、この魚も顔に基づきペア相手の識別をしていると予想しました。
図2.ディスカスのペア
全身の模様も個体によって大きく異なる
実験では、ペア相手と未知個体の顔と体を入れ替えた合成画像を使用しました(図3)。本種はペア個体に対してはあいさつ行動を、未知個体に対しては攻撃行動を示します。顔部分を入れ替えた画像を見せたところ、顔がペア個体と同じモデルに対してはペア個体と同様のあいさつ行動を、顔だけが未知個体のモデルに対しては攻撃行動を示しました。結果には有意差が見られ、明らかに両者を区別していることがわかります(図3)。このことは、ディスカスも顔の模様だけで相手個体を識別していることを示しています。この結果から、魚類においても「顔」が相手の識別で重要な部分であることが改めて示されました。
図3.ディスカスの4つのデジタルモデルの作製方法(上)と実験結果(下)。ペアの顔モデルにはペアの挨拶行動を示すが、未知個体の顔モデルには示さない(下左)。また、ペアの顔モデルには攻撃しないが、未知個体の顔モデルには攻撃する(下右)。**は高い有意差があり、NSは有意差がない。
今後の展望:ヒトとの共通性
今回の成果から視覚で相手個体を区別する魚類にとって、顔はやはり特別な存在であることがわかりました。なぜ顔なのでしょうか? それは「眼」が関係すると考えています。顔の認識では鼻や口よりも眼が大事な役割を果たしていることはほ乳類の顔認識の研究でよく知られています。脊椎動物の眼の起源は魚類が出現した古生代にまでさかのぼります。古生代の魚類の段階で、捕食者の顔認識(眼を含めた)の能力が進化したと考えています。ヒトの場合、顔認識には大きく2つの神経回路が知られています。危険なものを素早く識別ができる「皮質下(動物的な古い)回路」と表情なども読み取る「皮質(新しいタイプの)回路」です。我々は「ヒトの顔認知における動物的神経回路の起源は魚類段階までさかのぼる」との仮説をたて、検証実験を始めています。
本研究について
本研究は下記の資金援助を得て実施されました。
◆科研費『脊椎動物の社会進化モデルとしてのカワスズメ科魚類の社会構造と行動基盤の解明』
◆科研費『魚類の共感能力と関連認知能力の解明およびそこから見える脊椎動物の共感性の系統発生』
◆科研費『脊椎動物の社会認知能力の起源の検討:魚類の顔認知、鏡像認知、意図的騙しの解明から』